川上正徳氏稿 ”五島の教会に「ゆうこう」を探しにいく”  長崎游学から ( 長崎県 )

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川上正徳氏稿 ”五島の教会に「ゆうこう」を探しにいく”  長崎游学から

長崎游学シリーズの新刊「長崎游学11 五島列島の全教会とグルメ旅」長崎文献社編 A5判並製 フルカラー152頁 定価1080円(税込)が有名書店で発売中。
次の内容により私の友人、川上正徳氏稿 ”五島の教会に「ゆうこう」を探しにいく” が、58〜59頁に掲載されている。   

五島の教会に「ゆうこう」を探しにいく   川上 正徳

外海から五島に移住したキリシタンの里にも「ゆうこう」は植えられていた。その調査報告の一部始終——。

■「ゆうこう」とカトリック教会の関係
「謎のかんきつ類を追う」というタイトルで平成21年(2009)1月15日付長崎新聞に私の顔写真が掲載され、私が「ゆうこう」を調査していることが紹介されると、五島のふたりの方から電話がありました。中通島のHさんと奈留島のEさんで、ふたりとも役場の元職員でした。五島にも「ゆうこう」があるのだろうかという期待感が高まり、まず中通島へフェリーで行きました。このとき初対面のHさんによると、地元では「この蜜柑は大きな柚子で柚子湯に使っています」とのことでした。案内されて行った先は「高井旅」と「福見」というカトリック教会のある地域でした、
実を手にとると独特の香りと色で「ゆうこう」とわかりました。それも教会の近くに「ゆうこう」があったので帰路の船旅はひとりビールで乾杯しました。「ゆうこう」とキリスト教教会の深い関係があるという仮説が確信になったからです。
その後、奈留島のEさんから連絡があり、「奈留島の蜜柑」を1箱いただきました。地元では「久念母(くねんぼ)」と言うそうです。さっそく長崎県果樹試験場へ送り、調べてもらったところ、何と奈留島の久念母は長崎市の土井首や外海と同じ「ゆうこう」でした。そこで私は奈留島へ行き、「久念母」ならぬ「ゆうこう」の調査をEさんとおこないました。その後、Hさんからの報告で、新上五島町世界遺産推進室では、管内の「ゆうこう」の分布調査で30本のゆうこうを調査されたていたと聞いて、私も調査報告書をいただきました。
2016年にはいり、Eさんから世界遺産候補の江上教会に「ゆうこう」があるという情報がありましたので、私は1月31日朝、五島にわたり、Eさんの案内で江上教会裏に2本の「ゆうこう」があることを確認してきました。

■若松島の大平教会裏に「ゆうこう」
同日午後、Eさんと別れて、フェリーで中通島へ行きました。前回調査した高井旅教会、福見教会付近を再確認したあと、新上五島町の報告書をもとに、中通島の西側海岸沿いに桐、横瀬、築地の3地区を探しました。18本あるはずの築地でようやく公民館横に2本確認できただけでした。報告書には若松島の大平教会の裏にあるとあったので、1泊した翌日、距離はありましたが長い道のりをドライブし、最後の峠を越えると直ぐ下に大平教会を見つけることができました。探すまでもなく教会のすぐ裏に「ゆうこう」がたくさん実った木を確認できました。2日間の島での調査は、愛車のスクーターで中通島110kmを走破していました。残りはつぎの楽しみに出かけたいと思っています。

■「世界遺産候補」とゆうこうの伝搬の関係?
私が「ゆうこう」に出会ったのは、平成13年(2001)の長崎市役所最後の職場で、土井首地区の地元の方々と「みさき道」や「殿様道」を歩いていて紹介されたのが最初でした。その後、長崎県果樹試験場N科長さんと一緒に分布を調べ、園芸学会に新種と発表してもらって以来、私の「ゆうこう」を訪ねる旅は、外海町、佐賀県馬渡島、中通島、奈留島とつづくことになりました。黒島や下関の六連島も行きましたが、こちらは残念ながら見つけることはできませんでした。しかし、禁教時代に外海地区から五島に移住した潜伏キリシタンが、復活後建てた教会付近に「ゆうこう」があることは、偶然のことではないと考えています。外海の「ゆうこう」が移植されたものと思われます。
そんな中、長崎市世界遺産推進室から、私の外海の「ゆうこう」調査結果の資料を提供してほしいとの申し入れがありました。長崎市や新上五島町が私の「ゆうこう」を訪ねる旅を後押ししてくれたことに感謝しています。

■国際スローフード協会の「味の箱舟」に
長崎市は、平成17年(2005)土井首地区と平成18年(2006)外海地区で、地産地消として植樹祭に苗木の交付して以降、「ゆうこう」の育成が始まりました。長崎市が長崎県立大学シーボルト校に「ゆうこう」の成分分析をお願いしたところ、高血圧症を軽減する成分がとくに高いことがわかりました。「スローフード長崎」という食品研究団体は、「ゆうこう」を国際スローフード協会の希少食材認定制度「味の箱舟」に登録してもらうよう申請した結果、2008年に認定されたのでした。「ゆうこう」は新たな食材としても広く利用されるまでになってきました。たとえば、飴、ケーキ、もなか、どら焼き、羊羹、アイス、ポン酢、酢、ハム、ジュース、ラーメン、リキュールなどに使用されるまでになっています。
地元にむかしからあったのに、かえりみられなくなっていた蜜柑「ゆうこう」が、今後も、守り育てられることを祈っています。